叩き上げの英語 230
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叩き上げの英語 230

 

見るとベッドの下になんとハイヒールが数足並んでいるではないか。私は一瞬胆をつぶした。あきらかにそこは婦人兵の宿舎だったのである。

ご存知のとおり私は男である。私の頭の中にストーリーがつくられた。私が主役の痴漢である。逃げるところをつかまって油をしぼられ、揚句の果ては訓練も始まらぬうちに破廉恥罪で日本へ強制送還である。  

全身の血が凍った。毛穴という毛穴から汗がいちどきに吹き出る。今の私の行為はりっぱなのぞきである。たとえ真意ではないにしても弁解の余地はない。だれも信じてはくれまい。

一刻も早くここを出ることだ。 しかしときはすでに遅かった。遅すぎたのである。出口に向かった私の背中に鋭い制止の声が突きささった。甲高い女性の声である。  

Hey you, what are you doing here? Who are you?  「お前、そこで何してる。お前はだれだ」。万事休す、である。シャワー室から出てきたらしい彼女は振り向く私にあわてて身体をタオルでおおいながら私に「部屋に入れ」と言いつけた。  

Get into my room, you.  最後の you は日本でならば「入れ、貴様」というような怒りを示す方法で、相手の名前を知らぬとき、このように you をあとにつける。 事態は深刻である。私の恐れていたとおりの展開となってきた。