叩き上げの英語 180
不意にドアが開いた。宣告である。いつの場合でもこの瞬間は実にいやなものである。 日本語の問題を出した人だった。
リセプショニストの机の前に立ち、皆のつよい粘りつくような視線をはね返すように言った。
「中野さんは残ってください。他の方々はどうぞお引きとりください。どうも今日は御応募ありがとうございました。御苦労様でございました」
自分の耳が信じられなかった。一瞬、全身の血が逆流するのを覚えた。私は正に天にも昇る気持だった。 ライフを読んでいた人も、私のとなりにいてエスクワイヤーの小さな活字がぎっしりとつまった頁に目を走らせていた人も、そして倣然と足を組んでパイプをくゆらせていた人も、みな落ちた。
そして最年少のこの私が只一人採用されたのである。時間か経つにつれてその喜びはいやが上にも高まってきた。胸の中からのど元にかけて、何か棒で突き上げられるように大声で叫びたい気持にさえなった。
後日、聞かされたことだが、皆この「暴発」でつまってしまったという。正解というか、この適訳は名詞なら accidental discharge であり、文章にするのなら One of the policemen had his gun discharge accidentally. であると教えられた。
たしかに日本語では主語を「拳銃」としているが、しかしその結語である「暴発する」という動詞は英語にはない。
よく考えると、拳銃がひとりで暴発するはずもなく、これを人為的に起こる現象としてとらえ、人間を主語にしなければならないことに気づく。だが、その結語の「暴発させる」という他動詞ももちろんないのだから、どうしたらよいか一工夫しなければならない。