叩き上げの英語 229
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叩き上げの英語 229

 

いまの日本のマンモス団地のように、同じビルが道路をはさんでいくつも整然と向かい合って立ち並んでいる。その道路の端はおそらく航空機の滑走路であろう。

はるか遠方には霞んで木立が見える。夕日が間もなくその木立の向こう側に落ちようとしている。地平線の彼方に沈む太陽を見るなどということは田舎での少年時代以来絶えてないことであった。

私のかげが長く後ろに這う。 わが家がみつからないとはなんと情けないことであろう。私はある棟に見当をつけてかまわずに入って行った、ビルの入口は地面より二メートルぐらい高くなっていて、そこに木の階段が地面から続いていた。

ビルを出たときはその木の階段を音を立てて降りたはずなのに、そんな記憶はまったくないから不思議である。 ドアを開けて入ると、かすかだが記憶にあるとおりのつくりだ。

長い廊下が、ホテルのようにまっすぐ向こうにつづき、その両側には部屋がそれと平行して並んでいる。 しかし何となく様子が変だ。女のにおいがするのである。

そのときすぐに逃げ帰ればよかったのだが、私は妙なときに妙な度胸がつくと見えて、よく確認しようと思いドアの下半分から部屋の中をのぞいてみた。  

当時はクーラーなどの設備はなく、扇風器で暑さをしのいでいた。廊下の奥は出入口のドアで、そのドアの上部は換気扇がうなりをあげてまわっている。日ざしは強烈だが、風はさわやかだ。夜になると急激に気温が下がる。

各部屋の窓を開けると、たとえドアを閉めてあっても風が部屋の中を抜けるようにドアの下半分は金網であった。だからそこから中が透けて見えたのである。