叩き上げの英語 221
陽春うららかな四月、希望に燃えて私はこの学校に入校した。命令書によれば三ヶ月の予定である。奈良は小学校の修学旅行以来初めての地であった。
「米国留学準備課程学生として幹部候補生学校に入学を命ず」という命令書は紙一枚ながら、私には千鈞の重みさえ感じられた。
クラス編成のため、授業開始に先立って再度テストが行なわれた。同じテストを通ってきた者だけだったが、やはり実力にはばらつきがあり、授業を効果的に進める狙いから、上中下の三クラスに分けるものである。
そのテストは英会話と作文であった。マグジェイの米士官と日本人職員の計二人が試験官で、日本人職員のいう日本文を英語にすばやく直し、その米士官に伝える方式であった。
それは思い出すのもなつかしいGHQ・PSDのときのそれと同じ形式だったので、当時と同じ自信がまた湧いてきたのを覚えた。
学校といえども自衛隊である。朝は早い。旧海軍の午前五時(冬季は六時)ほど早くはないにしても七時半までに朝食をとらなければ食べはぐれてしまう。
入校翌日が試験の日であった。校内では学生は全員胸に黄色いバッジをつけている。赤いバッジがときおり散見されるが、それは教官であった。 私の番が来た。
控室から廊下に出て大きく深呼吸する。明け放たれた窓から流れ込む四月の風は甘く、桜がにおう。 かたどおりドアをノックする。中から Come in please. の声。ドアを開ける。緊張の一瞬だ。
窓を背にしている試験官と視線が切り結ぶ。私は Good morning, sir. と挨拶する。このときも作戦どおり、私が先に口を切った。気持が落ち着く。不思議なくらい平静になる。