叩き上げの英語 218
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叩き上げの英語 218

 

命令とあれば止むを得ないが、しかしどうも納得できないのは、佐渡という同じ寒冷地に勤務しながら、他の隊員たちには支払われている寒冷地手当が、この私にだけは出ないことであった。

私が派遣勤務であるというのがその理由であった。つまり、私はこの部隊に所属する人間ではなく、あくまでも臨時に来ている、いわば居候にしか過ぎず、だから手当ての要はない、ということらしい。  

こんな不満もあり、私は十二月には当初の予定どおり原隊に復帰できるものと期待していた矢先、また来年の三月まで雪と暮らさなければならないのかと思うと、気が滅入った。  

夕暮れ時の空はどんよりと低くたれ下がり、一面灰におおわれているようだ。ともすれば重くなる心に女々しさが忍びこむ。散らつく雪が振り仰ぐ顔に冷たく溶けた。

チャンス到来!アメリカへ  

私が米国留学の部内テスト実施の知らせを受けたのは春も間近に迫った三月下旬のことだった。  

内示として、入間基地の人事担当の小川三尉が電話で知らせてくれたのである。日頃から私が寒冷地手当のことや米国留学の試験などを、ことあるごとにしつこく聞いていたので、何はさておいてもまっさきに私に知らせてくれたらしい。  

いよいよチャンス到来である。このためにこそ私は自衛隊に入ったのだということは大きな声では言えぬものの、その喜びを一人自分の心の中に押さえつけておくには、それは余りにも大きすぎた。