叩き上げの英語 191
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叩き上げの英語 191

 

英語にも決まり文句があるように、日本語の祝辞もひとつのスタイルがある。このような祝辞はそのままの翻訳ではさまにならない。

だから英文の和訳としてではなく、日本語独自の祝辞例文を読んで慣習的表現、言いまわしなどをすでに私は勉強していた。

私はよどみなく通訳した。目は前方をみる。特定の人と視線が合ってはいけない。「米軍顧問団を代表致しまして、本日この栄ある入校式に際し、心からなるお祝いの言葉を述べさせていただきます」

祝辞などは短いがよく、顧問団代表のそれはほんの二分程度であった。主催者側の訓示・祝辞よりも来餐のそれの方がくどくどと長いのはどうかと思う。彼らもその辺のところはよく心得ていたようだ。

この式典中、「サン写真」という腕章を巻いた男が写真をとっていたが、式典が終わり、顧問団とメスホールでコーヒーを飲んでいると、件のカメラマン氏が私のところへやって来た。

私の顔写真でも撮るのかなと不心得にも一瞬思った私に、彼は別にカメラを構える様子でもなく口を開いた。「あなたは中野さんではありませんか、目黒工業の三年B組にいた」とたずねてきたのである。

正にそのとおりなので「はい、そうです」と答えながら、よく彼の顔を見ると、どこかで見覚えのある人なのである。彼は名刺を差し出しながら、三年A組にいた土谷だと名乗った。

目黒工業学校は旧制の私立五年制の学校で、現在の目黒高校である。高校ラグビーで有名だし、青木義則、安井昌二は私と同期で、後輩には小林旭がいるなど芸能人が出ている。

当時はニュース写真などで有名だったサン写真新聞に彼は勤めているということだった。彼は私と再会を約し、あわただしく車を駆って社旗をひるがえしながら、次の取材現場へと去って行った。