叩き上げの英語 189
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叩き上げの英語 189

 

Any question not to ask? -冗句もわからぬ


教室での授業は、教官の話が一区切りつくと教官は必ず「質問はないか」と聞く。

Have you any question to ask? がその正しい英文であるが、頭の Have you とあとの方の不定詞である to ask を省略して、単に Any question? という教官もいる。

ときどき教官がジョーク的に Have you any question not to ask? とやる。学生が英米人ならこの冗句はすぐ笑いをさそうところであろうが、相手はそうではない。

私が「聞くべきでない質問ありますか」と通訳しても、そして私とその米人教官が笑いを浮かべながら、これは冗句だということを暗に示しても、何の反応もない。

ただ黙してこちらをじっと見ているだけである。期待に反して、むしろ白けてしまった教室にこちらの笑いもひきつってしまう。

英語の冗句は、それを日本語に訳したらその妙味は確実に消えてしまう。笑いやくすぐり、ナンセンス度はその場ですぐわからなければならない性質のものである。

受講する学生からの質問は鋭い。ときどき英訳できない語句もとび出す。そんなときは学生に正直にその旨伝え、何か別の表現をしてもらう、彼の説明を聞いているうちに、また他の学生がそれを補足したりして、私の英訳できるみちすじが開けてくる。

GHQ・PSDのハットリ中尉が言った「外国語である以上、わからないことがあるのは当り前で、それをどのように別の表現を借りて切り抜けるかが大切である」という言葉ほど、そんなときの、ともすればくさりがちの私を、力づけてくれたものはなかった。