叩き上げの英語 162
彼女は一瞬自分の耳が信じられなかった。いくら軍隊内のスラングとはいえ、レディの自分に向かって臆面もなくよくそんな言葉が言えたものだ。
彼女はあたりの喧騒から聞こえなかった振りをして、もう一度注文をたずねた。 水兵は面倒臭そうに、You heard me. I want some ファッケン doughnuts. 再三プライドを傷つけられた彼女は、半べそをかきながら、
これまた軍人であり、その階級も少佐であるレストランのボスにそのことを言いつけた。
ボスは言った。Go to the sailor and get his order and let me hear him say that again. もう一度その水兵のところに行って、オーダーを聞きなさい。
傍で私も聞いているから、ということである。 言われたとおり彼女は水兵のところに行った。What did you say you wanted? これは What do you want? 何が欲しいですか、に did you say がそう入されたものである。
こういわれれば I said I wanted〜 と言いたくなるのである。くだんの水兵は三回も同じことを聞くウェイトレスに半ば呆れ顔で、また言った。
I told you I wanted some ファッケン doughnuts. Are you crazy? これを傍で聞いていたボスは言った。OK, don’t sell him any ファッケン doughnuts. ボスもやはり軍人だった。
つい腹立ちまぎれに地金が出てファッケンを使ってしまったというお粗末。米国軍隊にいまも伝わる冗句である。