叩き上げの英語 159
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叩き上げの英語 159

 

店の主人が、それは大変高価なもので、私のような若者が持てるものではないと思ったらしく、盗品の疑いありと警察にご注進に及んだものである。  

私はそのまま高輪警察署へ連れていかれた。今ならパトカーでということになろうが、当時のこととて徒歩である。十五分ぐらいの道程であった。  

警察に入ると、大きなカウンターがあり、その前で少し待たされたあと、殺風景な調べ室に入れられた。私はそこで初めて自分の職業と名前と住所を聞かれた。  

私が米軍第八騎兵連隊、憲兵隊捜査課通訳と答えたとたん、相手はびっくりしたらしく、「ここは第七騎兵連隊の管轄ですが、第八連隊の話は聞いています。世田谷警察からもよく連絡が入りますので」と言う。  

三軒茶屋の話しがよくでるのなら当然、私のことをよく知っているはずである。めくばせを受けた若い警官が調べ室から出て行ったが、ほどなくもどってきた。世田谷警察に私のことを照会したらしい。

これで私の身元が明確になり、かつその顕微鏡か盗品である証拠がない限り、私はこれ以上警察にいる必要はなかった。

私は、こんなことがなければ、今夜のパトロールのため、部隊にいま頃は帰っていなければならなかったはずである。すでにそんな時間はなく、止むなく、パトロールのジープにこちらへ立寄ってもらおうと私は考えた。  

その時私はすでに署長室に通されていた。被疑者が一転して客人である。出された茶菓をつまむ間もなく、私は電話をかけた。

ふと横浜モータープールで電話から逃げまわっていた当時の私がなぜかなつかしく頭をよぎる。CQのMPが電話に出た。その晩は私の親友のペイン軍曹であった。