叩き上げの英語 158
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叩き上げの英語 158
2018年07月17日(火)5:00 AM
「とにかく売るよう努力します」と言った手前、私はその日の夕方、早速行動を開始した。 高輪の泉岳寺から坂を上り、伊皿子から古川橋方向に坂を降りるとそこは魚らん坂下である。
その交差点の際に、品物売り買いの古物屋があった。 質店流れの物が多くあったようだったが、私はまずそこにあたってみることにした。私の家から二、三分のところである。
物を売るということは生まれて初めてのことである。 通訳をするとき以上に胸がどきどきしたものである。このどきどきのパルスの谷間に何か不吉めいた予感があったようにも思えた。
店の主人にしばらく待て、と言われるまま待っていると、なんとそこに姿を見せたのは制服制帽の警官だったのである。私はその一瞬MPと警察署に仕事に来ていたかのような錯覚にとらわれた。
警官は私に聞いた。「この顕微鏡はどうしたのか」。正に英語でいうとオッジューゲッタである。KPのとき以来の Where did you get it? 「どこで手に入れたか」である。
私は六本木のときは麻布警察の警官と仕事上の関係も深く、署長ともども挙手の敬礼をもって遇され、部隊内の士官用食堂やマジホールで彼らと食事をともにしたことがよくあったが、警官からこのような疑惑の目で見られたことはかつてなかった。
私がどこからかそれを盗んできたものと思いこんでいるらしい。
その顕微鏡が米軍の物ならいざ知らず、日本製のものだから私自身は安心だったが、しかし司令官にはどんな迷惑がかかるやも知れず、だから私は彼の名は伏せておいた。