叩き上げの英語 154
MPたちも若く、そして私も若い。私の行ってみようの言葉に彼らもその気になったらしく、How far is that joint? とちんぴら氏に聞いた。
about five minutes. という彼の返答に、MPは私に Get in the jeep. といいつつ乗りかけたが、このちんぴら氏を乗せるわけにもいかず、結局、歩いて行くことになった。
ちんぴら氏の内心の得意さは想像に難くない。二人のMPを案内している姿は英語ができるということにまずつながる。仲間や女たちにはきわめて格好よくうつるに違いないのである。またその店のママさんにも大きな顔ができる。
胸をついてこみ上げてくるうれしさに自然に足は早くなる。口笛を吹きたくなるのはこんなときだろう。 その店は裏通りにあったが、そのあたりでは一際目立って間口が大きく、それに二階建てであった。
客によっては二階の畳部屋も貸すといっていた。数か月後、この部屋に上がったGI客同士で派手なけんかがあり、そのため軍事法廷に証人として出廷したこのママさんの通訳を私が担当することになるのだが、
なんとも皮肉なめぐり合わせをそのちんぴら氏はしてくれたものである。
たしかにそのママさんはきれいであった。和服がよく似合って、当時としては長身の美人で、色が白かった。酒などはほとんど飲めなかった私は、その後何回かMPたちに誘われてその店に行くことは行ったが、せいぜい女の子たちと踊るぐらいであった。
無理して飲む酒は頭痛をさそうだけだ。飲むほどに酔うほどにきわどくなるGIたちの大胆な行為を見せつけられ、そのうえ色恋沙汰の通訳をさせられてはたまったものではなかった