叩き上げの英語 146
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叩き上げの英語 146

 

Any trouble with anybody? (GIパトロール)  

東京・世田谷の三軒茶屋はこの憲兵隊のテリトリー(管轄地域)であった。戦時中に堀られた防空壕はまだ各所に残っていた。

夜の街灯もまだ整備されてなかった道路は暗く夜の闇に没し、板切れやとたんなどで形ばかりのふたをしてあっても、そんな穴に足をとられて怪我をする人が住々にしてあった。  

そんな戦争のつめあとがまだどす黒く残っていたにもかかわらず、そこだけは少しはあかるい一杯飲み屋がぼつぼつ出始めた。ふつうの平屋建ての家の玄関とそれにつづく部屋を改造し、簡単なカウンターをしつらえただけのみすぼらしいものであった。

しかしそんな店でも、外出してもどこといって行き場所のないGIたちにとっては格好の場であった。 英会話のひとつもしゃべろうというママさんが、そのGI客に対し着物を着てサービスした。

うすぐらい電灯の下でも着物の派手な色はそれなりに映え、彼らGIたちの目をたのしませた。二、三人はいる女の子もときたま嬌声を上げながらネコのひたいほどの床で彼らとダンスをしていた。  

毎晩八時頃になると、この三軒茶屋にパトロールに出るのがMPたちの日課だった。パトロールはMP二人でペアを組み、それに通訳が同行する。六本木から青山通り、渋谷から玉川通り、というのがそのコースであった。

交通渋滞などまったくない当時は、十五分もあれば三軒茶屋に着ける。  ほろをつけないジープはいわゆるオープンカーで恰好はよいが、ほろをつけると後部座席は天井が低くなり、頭をすこし下げてうつむき加減にして乗っていなければならないのが苦痛だった。