叩き上げの英語 140
私は「ここの憲兵隊にくるように言われてきた中野という者です」ということで、I am Mr. Nakano, and am told to report to the MPIS. Would you kindly contact the officer? と作文しようと思ったが、相手は米人である。
どうせ一回で私の名前を憶えてくれるわけもなく、用件を聞いたあと、彼は必ずもう一度名前をたずねてくるに決まっている。だから私は名前を一番最後に持ってくるように作文した。
「ここにくるように言われている」を現在動詞の am に代えて完了形でひとつ言ってやろうと思い I have been told to report to the MPIS here in this regiment. Would you contact the office please? Oh, my name is Mr. Nakano.
この「オー」でいかにも自分の名前を先に言うのを忘れた、という印象を相手は受けるのである。自分の名前を何回も繰り返して言うのはあまり愉快なことではない。
彼が連絡のため電話の受話器をとりあげた直後のタイミングに合わせて名前を言うのも、これまた「生活の知恵」であろう。待つほどもなくMPの腕章を巻いた米兵が迎えに来てくれた。
Are you Nakano, who is supposed to be the best interpreter that we are going to have here now? 米兵としては比較的小柄な人で気軽に声をかけて来た。
「君か、今からここに来てくれる優秀な通訳の中野というのは」というわけである。彼はサポーズを使って「ベストな通訳として想像されている」、つまり「その筈の」という味わいを出している。