叩き上げの英語 138
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叩き上げの英語 138

 

この中尉のような言いまわしは、常にいろいろな表現方法を学びとろうと思っている私にとってはこの上ない生きた教材となったのである。  

私も中尉のこの提案に諸手をあげて賛成し、是非にとお願いし、

I would appreciate it if you could see them about me. と作文した。appreciate it の it は if 以下を指す用法である。  

まだここに来て二週間も経っていなかったが、やはり私も前任者の考えていたように、このような「男と女のトラブル」の通訳ではあまり自分の勉強にはならないと思い始めた矢先であっただけに、中尉のそんな親切は大変有難かった。  

言うなれば中尉の言った「ビーマイゲスト」は彼女に対してではなく、はからずも私がそのゲストになってしまったようである。  

第八騎兵連隊の憲兵隊司令部には私をおどろかせるひとつのできごとが、そのとき私をすでに待っていたのである。


自分の名前は最後に言え  

第八騎兵連隊(8th Cavalry Regiment)は東京の港区六本木の交差点に程近いところにあった。現在の防衛庁の地である。今でこそファッションとディスコで明け暮れるこの界隈には戦時中は日本陸軍の麻布第三連隊があり、

代々木練兵場(現在の代々木公園)を付近に控えた兵隊一色の町であった。らっぱの音とともに軍靴の足音があたりに絶え間なくひびき渡っていたところである。