叩き上げの英語 129
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叩き上げの英語 129

 

ある日、フロントクラークからかまぼこ兵舎の私たちの事務所に電話がかかってきた。泊り客の米人とその連れの日本人女性との間にいさかいがあるのですぐ来てくれという。
 
この種のトラブルはここではとくに目立って珍しいことではなく、私の前任者もそんな男女ごとの通訳ばかりで厭気がさしてやめていったということも聞いて知っていた。

私がここにきて十日ほど経って、そろそろ内部の事情がわかりかけてきた頃のことであった。 三沢基地時代のそんな通訳を思い浮かべながら、「世に男女のトラブルはつきまじ」などと五右衛門を気どりながら砂利をさくさく踏んで、車寄せのあるポーチから玄関に急いで歩をはこんだ。  

フロントカウンターには中尉の階級章を襟につけた陸軍の若い士官と、これまた若い日本人女性が立っていた。中尉はフロントマンとなにやら話しをしている。こんな時に言葉が思うように話せない方が絶望的に不利になる。  

そういう時の通訳の出現は彼女にとって地獄の仏と言えよう。私の姿をみとめると彼女は喜びを満面に表わして、正に私にすがりつかんばかりであった。  

フロントマンが私に何か言おうとし、中尉がそれをさえぎるように何か私に言いかけてきたが、今度は私が彼の言葉をさえぎった。私はそのとき、報を聞いて事件現場にかけつけた三沢基地のAPの心境だった。  

Sorry lieutenant, one at a time please. I cannot handle so many at a time. Let me ask her first what she wants to say. And then, you tell me what you have to (say) against her.