叩き上げの英語 128
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叩き上げの英語 128
2018年05月08日(火)5:00 AM
知人の紹介で私がそこに就職したのは六月も末の頃だった。サマーバケイションで宿泊客も増えるシーズンだけに、彼らと女性従業員との間のトラブルもあとを絶たなかった。
士官として兵を律する立場にあるジェントルマンがなぜそんなトラブルを起こすのか、私には理解できなかった。そんな日本人従業員の人事を管理する私たちの事務所は、門を入ってすぐ左手の駐車場の奥にあった。
母屋からは切り離された仮設のもので、いわゆるかまぼこ兵舎を転用したお粗末なものであった。その窓からは駐車場での恋人同士の情熱的な場面がしばしば目撃された。
日本映画もようやくキスシーンをおそるおそる見せるようになり、翌二十五年に至ってもガラス越しのそれが大変な話題を呼ぶ、という時代である。
朝夕を問わず繰り広げられる傍若無人の彼ら米人たちの行為は大胆で、二十一歳の私にとっては強い刺激であった。 ビーマイゲスト そこだけ改造したと思われる玄関入口は廻転式ドアであった。
中に入るとそこは広いロビーである。当時のこととてフロアーにはリノリュームがいっぱいに敷きつめられ、高い天井からはぜいをこらした大小のシャンデリアがいくつも重そうに吊り下がっていた。正面のフロント受付には米兵が軍服を着て勤務していた。
軍のクラブであるからそんな軍服姿は当然と言ってしまえばそれまでであるが、しかしフロントクラークとしてはこのようなホールにはやはり黒服のネクタイ姿が似合いそうな気がした。