叩き上げの英語 127
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叩き上げの英語 127

 

その大邸宅が戦後米軍に接収され、第八騎兵連隊 (8th Cavalry Regiment) の将校クラブ officers’ club となっていた。

ホテルルームや娯楽室等にすっかり改造されてしまった内部は表からはそのようには到底うかがい知れぬが、外壁は昔とすこしも変わっていない棟つづきの建物がコの字形に駅に背を見せていた。  

それに囲まれた中庭には五十メートルプールが青く澄んだ水をたたえていた。夏の強い日ざしを受けて細やかに波立つ水面がダイヤを散りばめたようにきらきら輝いていた。数名の男女がその水にたわむれていた。

近所には世界の飛び魚とまで言われた四百メートルの古橋広之進を育てた神宮プールがある。そこの入場券を買うため炎天下、人々が列をなして順番を待っているというのに、ここには僅か数名だ。正に別天地の感があった。  

降るようなせみしぐれの中、プールサイドを飛沫をあげてはしゃぎまわる彼らは伸び伸びとして屈託がなく、その嬬声は外で起きている血なま臭い事件などまるで知らぬ気の、うらやましいぐらい平和そのものであった。  

このオフィサースクラブはマジホール (Mudge Hall) という名称がつけられていた。が、クラブとは名ばかりで、すでにそれはホテルであった。  

宿泊設備は完備しており、数週間に渡る長期滞在客も数多くいるためPX、バーバーショップ(理髪店)、ランドリー(クリーニング店)、テイラーショップ(洋服店)なども付帯していた。

邸内に働く従業員はルームメイドを始めとして女性が圧倒的に多かった。