叩き上げの英語 121
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叩き上げの英語 121

 

明けて昭和二十四年一月、私が就職したのは神奈川県の鶴見駅から車で十分位のところにあった米軍の第五九八修理補給廠(ほきゅうしょう)であった。

その頃はまだ交通機関もそれほど便利ではなく各米軍基地はその日本人従業員のため、トラックをバスに改造し、最寄りの駅まで送迎のサービスをしていた。  

この部隊もそうで、国電の鶴見駅にバスが迎えにきてくれた。それも七時三十分という早い時刻であるため、私は六時半に家を出なければならなかった。  

当時はまだあった都電で古川橋から品川駅に出て、そこから国電の京浜東北線を利用するというコースである。早朝の電車は乗客もまばらで、修理もされぬままの割れた窓から吹き込む寒風は身にこたえた。

くつのつま先から忍びこんでくる冷気に身体はいつの間にか鳥肌が立ち、ふるえていた。職種は「通訳」の空席がなく、「アカウンタント(accountant)」(経理係)であった。

大変いい加減な経理マンで、私が「そろばんができます」と言った瞬間、That’s good enough. といわれ、私はたちまち accountant になったというわけである。  

古くからいる日本人女性に仕事についていろいろ教えてもらったが、私は英語ができるという振れ込みで入ったので、彼女のその説明の中にエンジニア部隊特有の用語がぽんぽん出てくるのにはいささか参った。

いわく、マニフェスト manifest、リプレイスメント replacement、インベントリー inventory、バウチャー voucher、アメンドメント amendment、ウエルディング welding、イクスペンダブルとナンイクスペンダブル expendables and nonexpendables などである。