叩き上げの英語 101
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叩き上げの英語 101

 

タイピストを希望と答える人よりも、メイドでもPXのセールスガールでも何でもよいと答える人の方が圧倒的に多かった。やはりタイピングという一つの技術を持っている人は少なかったようである。


英文のタイプライターなど今まで見たことがない村人たちが数人明け放たれた窓から中をのぞきこんでいる。私が日本語で質問しながら英文タイプをかたかた両手で打っている姿はまた彼らにとって二重のおどろきであったにちがいない。


私は、そんな仕事は何でもよいという答には Any job that suits me. と打ちこんだ。質問はこれで終わりである、もし相手が米人だったら This completes my questions. と私は言うところだ。


つまり「これで」を「これは」に変えて主語とすると、その結語は「終える」という他動詞になり、その目的語として「私の質問」となり容易に作文できる。だからよく聞かれる「これをもちまして」とか「以上で」はすべて主語を「これは」 this にすればよいと気づく。


このように一人一人に質問するので全員が終わるのに小一時間はかかる。そしてその後、これから検診に行く旨告げると彼女らからたちまち抗議の声があがった。これは当然のことで彼女らにしてみれば正に理不尽この上ないことであった。


私は毎回のこととて、また同じ説明をする。検診ずみのサインがないとこれからは三沢基地には就職できない、と。しかし私自身もそんなことに納得しているわけではなかった。駅から歩いて五分ぐらいのところに医院があり、司令部はそこを彼女らの検診の場と決めてあった。