叩き上げの英語 098
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叩き上げの英語 098

 

素朴で静かだった寒村の小駅古間木はこのようにして俄かに活気づいて来た。それに比例するかのように急激にGIたちの間に、いまわしい性病が静かに増え始めた。罹病したGIは I got a drip. などと言って自嘲していた。

トイレ、洗面所、シャワールームなどには Get rid of VD. というポスターがべたべた貼られた。


get rid of は「とり除け」という意味だ。VDは venereal disease の略で性病のことである。


VDにかかるとそのGIは基地の dispensary (医務室)には行かず基地外の街医者にかかったものである。何故かというと dispensary ではVDの患者に対してはその相手の女性もそこに連れて来て強制治療しなければならないなど、大変手間がかかるからであり、


さらにはそのVDの罹病歴が軍人としてのこれからの昇進にはなんら影響を与えないと言われても、そんなことはGIのだれもが信じなかったからである。


彼女らはまず基地内に就職する。タイピスト、クラーク、PX(売店)などのセールスガール、ハウスメードなどがその主な仕事であった。このときは私の知人の松林氏が所長をしている労管を通るだけで、別に医務室などでの身体検査はなかった。


そして仕事について、特定のGIのオンリーさんになるのに二週間とはかからなかった。あるいは自分の下宿(当時はそんな寒村にアパートなどというものはなかった)にだれかれなくGIを「招待する」ようにもなる。


基地周辺の農家は競って家を改造し、大きな家はこま切れの部屋をいくつかつくり、彼女たちに貸した。金払いがよく、親切で愛想のよいGIたちは村人たちにも歓迎されたが、しかし妙齢の娘を持った親たちはとまどっていた。