叩き上げの英語 099
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叩き上げの英語 099

 

VDのまんえんぶりに手を焼いた米軍当局は dispensary からの要請で、いわば基地の人口でそれらを阻止すべく、古間木駅にAPと通訳各一名を常駐させ、列車から降りてくる乗客のうち、通訳がその服装からこれとにらんだ女性ばかりを否応なく一方的に抽出し、必要な質問をする、ということになった。


今考えればまことに人権を無視した乱暴きわまる話だが、当時はこんなことがまかり通ったのである。そしてその質問事項はその場でタイプする必要性から、タイプの打てる私がその通訳となったわけである。


昭和二十三年八月の暑い日であった。しかしそこには当時十九歳の私にとっては、そんな暑さを吹っ飛ばすような刺激の強過ぎるある事件が私を待っていたのである。


古間木駅にもRTOはあったが、その事務は国鉄職員が兼務しており、私がかってそうであった米軍鉄道輸送司令部直属の通訳はいなかった。だから英語には悩んでいたらしい。


そこへかつての、それも名門(?)の東京駅RTOの職員がAPと常時派巡されてくるというので、それの事務室としてRTOの事務室を使ってもらうことになり、あわてて模様変えをしたらしい。机も入れてくれたり、ソファーも大きいのに取り換えてくれもした。


列車が到着するたびにわれわれの目にとまるそれらしき女性たちは平均して五、六人だった。拳銃を腰に吊り、手錠をぶらさげているAPのいかめしい姿は諸々方々で見かけているので彼女たちはすでに慣れっこになってはいたが、しかし改札口で私やAPにいきなり呼び止められると、何事かとみな一様に怖がった。