叩きあげの英語 076
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叩きあげの英語 076

 

こんなありさまでほとんど私だけのスピーキングに終始してしまったこの日の自由会話教室であったが、このような説明づきのクラスはみな初めてであったらしく、時間をオーバーしてもだれも帰ろうと席を立つ人もなく熱心に私の話しに耳を傾けていた。

帰途についたあとも、とくに作文の思いがけないプロセスには感動を覚えたと興奮さめやらぬ声があちこちから聞こえた。

私はその英会話学校の学生でも何でもなかったが、その土曜日の自由会話に二回三回と足を運ばせるうちに、私のことがいつか職員室での話題にのぼるようになり、やがて新入学生の入校式当日に招待を受けることになった。


来賓として私に祝辞を述べて欲しいというのである。しかも英語でである。私のいかにしてそんな短期間に英語を習得したかの苦心談は、これから学ぼうとする生徒によい指針とはげましになるので是非とも、と請われたが私はことわった。


私は当時二十歳になるかならぬかの若輩で、とても壇上に立って話ができるほどの内容もなく、そんな器でもないというのが私のその理由であったが、それは表向きのことで、実は人前で、しかも英語で話す自信など私にはまったくなかったからである。


私をその英会話学校に紹介してくれたその女性は、たしか中原じゅん子氏といったように記憶しているが、彼女はまた私のよきアドバイザーでもあった。彼女の職名(job title)はクラ-クであったが、英文タイプもよくした。ある日、彼女は私にこう言ってくれた。