叩きあげの英語 062
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叩きあげの英語 062

 

「IDカードを見せなさい」と言ったらその相手に why(なぜだ)と聞かれ、せせら笑う彼に一言も言えなかった例はざらであった。

作文力の養成をまったく無視したインスタント英会話が今もあいかわらず行なわれているのは何とも愚かしく、嘆かわしい。

私たちRTO職員はアームバンドを巻いているときはその専用車に乗れる。つまり職務上、制服以外のおかしな外人をチェックするという建前で乗るのである。いわば検札である。

当時は、わざとあやしげな日本語を話す、いわゆる「二世風」のお兄さんたちがばっこしていた。日本語があやしい分だけ、英語がうまいと思われるのを期待してのことであろう。

また、それらしく見えるよう、服装にも彼らは気を配っていた。車掌が積極的にチェックしてこないのをよいことに、そういった輩が乗り込み、はた迷惑の騒ぎようだ。

彼らは乗ってくる私の腕のアームバンドを見るととたんに黙ってしまう。RTOの通訳職員達はまともな英語を話す、という定評があり、その語学力は高く評価されていた。

それを知っていたのであろう、彼らはそれまでの傍若無人の振舞はどこへやら、さすがに急におとなしくなった。

型通りに車掌に声をかけて車内の様子などを聞き、私はその二世風の男たちに近づいた。そして私は一人に言った。May I see your AGO card, please?
 
きわめてていねいな言い方であるが、しかし語勢はするどい、つもりだ。目はきっと相手を見据えている。

ここが大事なところで、多勢に無勢、弱腰を見せないため目の位置は大事だ。彼が出したカードにはどこかの米軍部隊のもので、職種はクラーク(書記)であった。案の定である。