叩きあげの英語 060
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叩きあげの英語 060

進駐軍専用車(For Allied Forces Personnel Only)

 

国鉄や私鉄を問わず乗物にはすべてその運転席に立ち入ることを禁止する旨の札がその近辺に貼りつけられてあった。

 

「進駐軍の命により運転席には立ち入り禁止」というのがその文句であった。「進駐軍の命により」は By Order of the Allied Forces Commander. の直訳であった。

 

この進駐軍の命により、と言わなければ規則に従わなかったほど日本人の秩序は乱れてはいなかった。秩序を乱したのはむしろGIたちであった。

 

にもかかわらず、そんな仰々しい札を見るたびに、それこそ「命令」どおりにそんな札をかけなければならない現実の姿に、やはりわれわれは負けたのだという実感が胸を打つのであった。

 

朝夕のラッシュ時はいうに及ばず乗物の混雑は食糧買い出しの荷物もそれに加わって、殺人的でさえあった。現在も通勤時は混み合うが、当時はそんな生易しいものではなかった。

 

入口から無理矢理に押しこむので、反対側のドアが外れ、附近の乗客がばらばら外にこぼれ落ちたという、笑えぬ話もあったくらいである。

 

ドアが外れぬよう今もその下に留め金具がついているのはそのとき以来のことである。 この年にRTOは米軍専用車を誕生させた。

 

山手、中央、京浜東北の各線の最後尾の一輛を半分、乃至(ないし)は3分の1を簡単に板で仕切ったもので、 外側には進駐軍専用車と明示してあった。

 

そしてドアの附近には英字で For Allied Forces Personnel only とあったように記憶している。