叩きあげの英語 056
彼らの荷物のほとんどはダフルバッグ(duffle bag)やバルパック(valpack)に入ってしまう。現在の自衛隊員の持つ、いわゆる衣のうはこの米軍のダフルバッグである。
新任地におもむくGIはRTOのドアーを入ると私たちの待つバゲッジセクションに迷わず、おおまたで歩いてくる。制服のズボンには線がぴちっとはいり、くつはぴかぴか。
上着のポケットはよくみるとそのふたが縫いつけてあり、物が入れられないようにしてしまってある。制服のポケットに物をたくさん入れて、歩くたびにそのふくらんだポケットがばったばったとゆれ動き、ひざが出てズボンが「く」の字形になっているどこかの国のぶざまな自衛隊員とはまったくわけがちがう。
背が高いか低いかの問題ではなく、服装に対する感覚の問題である。服装のスマートさといえば当時の銀座四丁目の交叉点で、焼けただれた三越をバックにして手信号による交通整理をやっていたMPのその端正な服装と器用な手さばきは新聞や映画などでよく紹介され、話題になったほどである。
I want to go to Sendai. という仙台行きのGIが非常に多かった。仙台には米軍の第十一空挺隊(パラシュート部隊 11th Airborne)があったからだ。
今は左腕にRTOのアームバンドを巻いた私が、GIに指図する。いわく「Put your baggage up here.」さらに言う。「May I see your orders, please?」これは彼の行く先を確認するためのものである。
このていねいな言い方の May I see your orders, please? が後になって Let me see your orders, please. となり、
さらに Show me your orders. と言ったりする。
つまり仕事をしながら、知っている限りのいろいろな表現を使って確実にそれらを身につけようというわけである。