叩きあげの英語 052
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叩きあげの英語 052

 

その晩帰宅すると、さっそく履歴書を作成した。もちろん英文でである。タイプライターなどというものがわが家にあるはずもなく、手書きだった。

 

明日の晩は首尾よくRTOが決まり、よろこびの夕餉に坐れるか、はたまた自動車屋にもどるか。神のみぞ知るだが、しかしどこでもよいからと紹介されたモータープールとはちがい、RTOは少なくとも今こうして自らがえらび、希望した所である。何としても入りたかった。

 

横浜NYKビルは、うそ寒く、そしてどこか排他的につめたい感じの近代ビルとはその趣を異にし、横浜にあるのが、それにとってはもっともふさわしいと思わせるたたずまいを見せていた。それはあたりの異国情緒によく溶けこんでいた。

 

そのビルの一階は、いわゆるワンフローアタイプで、端から端までずっとカウンターが直線に走り、それがそのフロアーを事務室と来客用スペースとに二分していた。

 

米軍は必ず、だれでもそれが何の課かすぐわかるように要所要所にそのセクション名を明示したサインを掲げてあった。だれにたずね聞く必要もなく、私は Personnel Section(人事課)と標示してあるところに行き、その前にしつらえてあるソファーに腰をおろした。

 

上着の上からその内ポケット内の履歴書をそっと押さえ、封筒の感触を確かめた。カウンターを隔てた執務室では大ぜいの人が忙しそうに立ち働いていた。制服の米軍人にまじって私服のアメリカ人も見えた。日本人も多数いた。