叩きあげの英語 051
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叩きあげの英語 051

 

彼の話を聞いてみると、彼はいわば私の前任者で、私がこのモータープールにくる前の通訳だったらしい。彼はときどきちらっと自分の腕のアームバンドを見ながら私の質間に応じて、RTOの仕事やその内容をていねいに説明してくれた。


いわく「このアームバンドを巻いていると電車はおろか、バス・地下鉄に至るまで、乗物はすべて敬礼ひとつでただ」


私をうらやましがらせるにはそれだけで充分なのに、さらに彼は、私に誘いかけるのだ。いわく「Train interpreter になると米軍専用列車に乗務し、全国をまわれる」。


話を聞けば聞くほどその仕事に惹かれていく自分を押さえることができなかった。


さらに彼は続けた。いわく「その関係で手に入りにくい切符も容易に入手できるから旅行好きの女の子にも大もてである」。これが私への決定打だった。


この瞬間、私の心は完全にモータープールから離れてしまった。彼がここを出たと同じコースを私もまたたどろうというわけである。そして今優秀な通訳を募集しているということを最後に聞き、私はさっそく翌日にでも応募しようと決心した。


しかし「優秀な通訳」という条件が心にひっかかった。私はどうみても優秀な部類には入らないからである。だが私は、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれのたとえのとおり、ここはひとつあの日のアメリカン クラブでの度胸と心臓でぶつかってやれと決心し、ようやく少し気が軽くなった。