叩きあげの英語 050
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叩きあげの英語 050
2017年08月16日(水)8:42 AM
RTOとは Railway Transportation Office のことで、米軍第三鉄道輸送司令部(3rd Military Railway Service)に所属し、昭和二十年十一月に全国の主要各駅の一部を接収してその事務所とし、日本全土に散在する各米軍基地間の将兵の移動・貨物の輸送などをその任務とした。
司令部は私のつとめるモータープールの近くの日本郵船ビル、通称NYKビルの中にあった。この業務は昭和二十七年三月一日の接収解除の日まで約七年間つづいたのである。
英語の電話にもようやく慣れてきた翌年の昭和二十三年の二月下旬は、すでに春の到来を感じさせる日ざしがやわらかくあたりを包んでいた。
何の前触れもなく私のいる事務室に男が一人入ってきた。十二時少し過ぎ、私も食事に行こうかと思っていた矢先であった。見ると彼はその左腕にRTOの赤いアームバンドを巻いているではないか。
はて、その鉄道屋がこの自動車屋に何の用かな、といぶかる私を、まったく気にかける様子もなく、彼はなれなれしく、しかしだからといって別に不快感を私に与えるでもなく、まことに自然に、気さくに私にたずねかけてきた。「なんとか軍曹いるかしら」。
その軍曹はちょうど昼食に出ていたので、その旨を告げると、彼は別に不具合を感じるでもなく、私の机の前にあった椅子に腰をおろした。
米軍のオフィスには慣れ切っているという感じだ。さらにそのフレンドリーな態度、見知らぬ人に対して気恥ずかしさをみじんも感じない様子は、米兵とまったく変わらなかった。