叩きあげの英語 031
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叩きあげの英語 031

 

そうでなくとも直立のボクシングスタイルで腰は高く不安定この上なかったからたまらない。


GIの巨体は地ひびきを打ってものの見事に倒れた。細い棒を立てて、ちょっと横に押したらパタンと倒れた、そんな感じである。


 これで終ればハッピーエンドなのだが、実はそうではなかったのである。その倒れたGIがもう一度やろうというのである。One more time と言っているのだ。ピンポンでワンモアというカウントがあるからその英語はわかった。


しかし今度はボクシングをやろうというのである。You use it and I use boxing. と彼は言ったようである。it は相撲を指している。


 私は言った。必死で作文したのである。You are American and you know boxing but I don’t know. 相手の本人よりもまわりの観衆が許さなかった。

 

「あなたはアメリカ人でボクシングを知っているが、私は知らない」という私の英語が彼らに正しく伝わったのだ。大きく言えば世論に押されて、彼はしぶしぶ「オーケー、ワンモアタイム」と相撲をとることを承知した。

 

私も彼を信じ、相撲をとるべく立ち上がったが、いきなり彼は乱暴にも右手のこぶしで私のあごを打ってきたのである。それほど強くはなかったが、それでも唇が切れ、血が流れてきた。

 

 あきらかにルール違反である。西部劇流にいうならばうしろから銃を撃ったぐらいの卑劣さであった。果たせるかな観衆が口を揃えてオーノーである。