叩きあげの英語 028
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叩きあげの英語 028

 

You know boxing but I don’t know.

 

 終戦から約一年が過ぎた昭和二一年の夏、その頃はどういうわけか、暑さがとくにきびしく空気がまだ汚染されていない、きれいな状態であったせいか、または空腹のせいか、とにかくじりじり照りつける日ざしは強烈なものだった。

 


 GIたちの昼食が始まり、それが終わるまでは特に仕事のない私たちは、メスケの洗浄代行は止めて、今日はみんなで相撲をとろうということになった。KPシャック(shack 小屋)の前の中庭に土俵を画き、勝ち抜きを始めた。

 


 一人二人と食事を終えてメスホールから出てくるGIたちはKP小屋でメスケを洗うことも忘れ、私たちの相撲を見ていた。まわりで見ていられるとゲームに熱が入るのは自然の情である。とくに観戦しているのは外人である。当時彼らは日本の相撲はおそらく知らないはずである。

 


 私たちは色々な型を見せるようにして取り組んだ。大きい私が、私より少し背の低い某君と取り組むことになった。その頃は二十人ぐらいに増えたGIがぐるっとまわりを取り囲むようにして私たちを見ていた。

 

おそらく、「あれは何だ What is that?」、「レスリングか Is that wrestling?」、「そう見えるが、しかしそうではないようだ It looks like it, but it isn’t so.」、「見たことがないファイトだ。I have never seen a fight like that.」などが彼らGIたちの間にささやかれていたにちがいない。