叩きあげの英語 027
まず英文を作らねばならない。私は単語をめちゃめちゃに羅列するのは最初から気に入らなかった。いかにも勝った軍におもねる敗者のへつらいが鼻につくのだ、またそれにも増して中学で英語を学んだというプライドが私にはあり、そうでない連中と同じレベルでブロークン英語を口に出すことを私はいさぎよしとしなかったのである。
一応とっさに浮かぶ英文は日本語もまじる His 分 is no だが、これではあまりにもお粗末だ。だから少し考えて He has no present. がまず頭に浮かぶ。しかしこれだけでは私の私たるゆえんがないから、もう少し文を長くしたい気持ちもあって、私はこれに nothing to do で身につけた「 to +動詞」を使ってやろうと思った。
つまり「すること」の to do の do に代えて、この場合「家に持って帰る」から to take home を考えつき、そっとつけ加えたのである。
私は言った。 He has no present to take home. 幸いにもこれは立派に通じたのである。
家で待つ家族中が、毎晩その「プレゼント」を期待しているようになってしまった今、持ってかえらないと、何か自分が悪いことをしてしまったような気がするとしょげていた某君もあらたにつくってもらった大きなカンを二つ両手に持って、顔中にそのよろこびを漲ら(みなぎら)せた。
実はこの不定詞の to take home は、以前からGIが私たちに「持って帰れ」というジェスチャーをしてひんぱんに使った、今ならわかる、主語なしの、いきなり動詞ではじまる命令文、Take it home. からそのヒントを得たものだった。不定詞の形容詞用法を受講生に説明するとき、人知れずこのKP時代のことが思い出されてくるのである。