叩きあげの英語 007
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叩きあげの英語 007

  やがてその門を入り、中庭に整列させられた。さすが数週間前までは規律厳正だった軍人であり、軍事教練を受けていた学生だった。

 

三列横隊にすばやく整列したものである。 私が一番背高だったのか先頭に位置した。思わず私は番号をかけ、人員報告をしたい気分に駆られたぐらい、その整列は見事だった。

 

間もなく、見るからに猛々しい大男の米兵がやってきて、その図体にも似合わない人なつっこい目で、われわれに何か英語で言った。

 

だれもわかるものはいない。言葉とは不思議なもので、たとえ相手がわかるはずがないと承知していても、言わなければさまにならないから口に出してしまう。

 

手首まで毛の群生したくだんの大男、われわれの列の前を歩きながら太い指をわれわれに向けて突き出して人選を始めた。 それもだまってやったのではこれまたさまにならない。

 

私が初めてわかった生の英語がこのときの英語である。ユーアンニューアンニュー・・・ユーアンニューとは you and you のことである。

 

そして人選が終るとカミヤン(Come on)と言ったものである。つまり列の前に出て来いというのであろう。

 

これも手招きが加わったからこそそうとわかったようなもので、互いに言葉がまったくわからぬ者同士が多数集まって何かをやろうとしている状況は何とも不気味でさえある。