叩き上げの英語 227
サンアントニオの駅から迎えのバスでやっとのことでラックランド基地に着いたのはサンフランシスコを出発した翌々日の午後六時頃であった。
ここでは無線・レーダーに関する専門英語の指導を三百六十時間に渡って受ける予定になっている。 係りのGIが来て部屋を案内してくれたのはいいが、彼は腕の時計をちらっと眺めて言った。
You had better go to the mess hall right away or you will miss the chow. 早く夕食に行かないと食いっぱぐれるぞ、と私たちをせきたてるのである。chow というのは軍隊でよく耳にするスラングで「食物」のことで、発音は「チャワ」と聞こえる。
私たちは当初はシャワーでも浴びて、それからゆっくりと夕食、と心積りをしていたが、彼のそんな言葉に追われるように、荷物だけを部屋に置いてあわてて外に飛び出した。
教えられたとおりに行くとメスホールがあった。KPのGIが裏庭でじゃがいもの皮をむいていた。Let’s peel potatoes. と散々いわれたKP当時の私の姿が彼らの中に浮かびあがった。
「日本国政府の命により・・・・・」とある公用パスポートを何回も何回も機中で読み返した私だったが、この夕食の頃から訪米の念願がついに叶ったその嬉しさと喜びが徐々に大きくふくれあがり、感激と興奮が全身を駆けめぐるのだった。
コーヒーを一口すする度に、そして肉を一切れフォークで口に運び、パンをちぎる毎に、私のひとつひとつの勉強が今こうして実を結んだという思いが、数日の旅の果てに無事に目的地に着いたという安堵感と共に、なおいっそうの実感となって胸を熱く高鳴らせる。