叩き上げの英語 212
Say Sgt. Nakano, would you give us a ride too, sir? 英語で、このような「サー」は敬語である。
目上の人や、尊敬する人に対して使う。私はそれまで使いっ放しで、ついぞ使われたためしはなかった。いい気分である。
これにさそわれたかのように、その酔ったGIは、しぶしぶ尻のポケットからワレット wallet (二つ折りの財布)を取り出し、なにがしか支払った。私もほっとしたが、ママさんもうれしかったようで、私に何度も何度も礼を言った。
「おれたちも乗せてくれるか」と聞いてきたGI二人は無線関係のオペレーターであった。I sure would.と答えた私は得意の絶頂であった。いまこの瞬間だけは、このバーの中だけだが、すべては私中心に回転していた。
ママさんには目礼だけで、だからほとんど日本語の必要はなく、英語だけに終始した。 トラブルなど何も起こさず、GIに支払いをさせたスマートさに加え、他のGIたちも後ろに従えてジープに向かう私の長身の姿には制服がよく似合っていた。
とても素適だったとママさんがあとで言っていた。 我田引水で大変申し訳けがないが、ことほど左様に、当時、今もそうであるが、英語が真の意味でできるということは大変なメリットがあった。
当時、このレーダー基地には英語ができる空曹がもう一人いた。彼は語学の専門員ではなかったが、奈良橘三曹という人で、後にパイロットを経て情報関係の仕事にたずさわることになる。彼には英語のことやら訓練のことやらでいろいろと相談に乗ってもらった。
防府の教育隊当時、彼はそこにいて私たち語学空曹の教養訓練にたずさわったそうだ。先日、渋谷で二十七年ぶりで彼に会ったが、話しはいつまでもつきることはなかった