叩き上げの英語 176
私にはテストらしきものは全くなかったのである。私はただ一言「ああそうですか。わかりました」と日本語で言ったに過ぎなかった。
彼女はさらに言った。また英語である。I have already sent nine people over there. They want only one top-qualified interpreter in the PSD. You are the last one. I wish you good luck.
パブリック・セーフティ・ディビジヨンは多分「公安課」か「公安部」当りではないかと頭の中で訳してみた。彼女はすでにそこへ九人もの人を紹介していると言う。
それもたった一人の「最高のレベルの通訳」のポストにである。私は半ばあきらめた。順番を待っている人を見ると、大半が三十歳、四十歳代である。だからおそらく私の前の九人も私よりはるかに経験も豊富で語学力の点でも私など足下にも及ばないのではないかと思い始めた。
テストなしで紹介された喜びはそんな不安に包まれ始めると、やがていつの間にか消えてしまった。 NYKビルの受付けには日本人のガードがいて電話連絡してくれた。程なく迎えにきてくれた公安課の職員の人に案内されて、四階のリセプションルーム(応接室)に通された。
立派な部屋であった。深々として柔かな大型ソファが白壁に沿ってコの字型に並べられ、ドアを開けたすぐ右側にはデスクが一つあり、リセプショニスト(receptionist)というサインポードがその上に置いてあった。
つまり「受付」ということである。そしてそこに女性がいて電話の応待をしている。