叩き上げの英語 177
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叩き上げの英語 177

 

電話が鳴るたびに Public Safety Division, receptionist speaking, sir. とまず名乗る。

あきらかに彼女は日本人であるが、その美しい発音とてきぱきと無駄なく応待する英語力には目を見張るものがあった。

応募者は九人いるはずだが、一人は面接中と見えて、ソファには八人の人がゆったりと坐し、思い思いに備えつけの新聞や雑誌などを見ている。

すべて英語の出版物である。足を高々と組んで、いかにもリラックスの態である。自信あり気で、私なんかのくる所ではないという雰囲気が私の心をしめつける。

個人面接必勝法 − まず先に口を開くこと  


待つこと約一時間で、やっと最後の私の番が来た。私の面接が終わるのを待って、全員の採否の発表があるらしく、面接を終えた人も帰らずに待っている。

だれもしなかったが、私は係の人が私を呼びに来たとき、そのリセプショニストの人に軽くえしゃくして廊下に出た。

人前を通るときの最低のマナーであろう。実は私には一計があった。面接は英語のはずである。一時間以上も無言のままでいれば口もこわばっているだろうから、とくに英語はでにくい。

だから口に活を入れるため、彼女に「ちょっと失礼します」と挨拶にかこつけて言わせてもらったのである。  

この一言で私の心は平静にもどった。痛いくらいの胸のしめつけはもう感じられない。