叩き上げの英語 092
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叩き上げの英語 092

私は自分の自信のなさに反発し、さらに勉強をつづけた。村田氏と起居を共にした基地外の旧海軍の士官宿舎などはうるさくてとても勉強などできる状態ではなかったが、司令官の好意で与えられた隊内のベッドルームは快適であった。

 

当時はクーラーなどはまだ存在していなかったが、しかしシャワーは汗っかきの私には大変有難かった。仕事がら毎晩必ずAPが一人当直の任につく。

 

これを彼らはCQ(charge of quarter)と呼んでいた。Who is the CQ tonight? I am. といったぐあいである。これは事件発生の連絡が地元警察から入ったとき、ただちにそれに対応できる態勢をとるためである。

 

隊内に彼らと一緒に居住する私は、だからいわば毎晩のCQである。寝ていても事件発生で起こされることは覚悟しなければならなかった。

 

私に寝室を与えてくれたのもこんな含みがあったのかと今更ながら思ったが、しかしその快適さを捨ててまで出て行ける程よそによい寝場所があるはずもなかった。

 

私はなにごとも勉強と思い、仕事を五時に終えたあとでも、ベッドルームで翻訳の仕事をつづけたが、それに疲れてふと窓の外を見ると空一面に散りばめた星が降るように近くに見えた。

 

夜も更けると広い飛行場のこととてあたりはしんと静まりかえる。遠くに光る車のヘッドランプが地平線に消える流星を思わせた。 APの当直室には常にコーヒーが沸いていた。自由に飲めるのである。

 

スピーキングの練習にもなるので私はよくそこに行き、APと話をする。それもできるだけ雑談を避け、翻訳上の疑問点をいくつかぶつけてみるようにした。コーヒーを注いで彼にもすすめる。