叩きあげの英語 009
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叩きあげの英語 009

 

空きっ腹をかかえた人々が、うつろな目をして街にあふれ、その街も木の焼け焦げたにおいがあたりにただよう焼け跡だらけのみにくい傷跡をさらしていた。

 

そんな敗戦というショッキングな結末、そして進駐軍の労務者に自らがなってしまったという現実がひしひしと胸に迫る。
 

どんな運命の手にかかったら、このようなわずか数週間前には夢想すらし得なかったことが白日の下に堂々と起こるのか。

 

十六歳の私にとっては、とてつもない大きなことが、もう止めようがない勢いでそのときすでに私の身辺に確実に起こっていたのである。


それは学習で苦しみ、つまづいては進歩し、また挫折という繰り返しのみで、その進歩向上がほとんど目立たない英語習得の、つらく長い道程を自らがえらんで入り込んでしまったということである。

 

そしてそのつらい語学で人生を渡るという方向づけがなぜかこのとき、すでにできてしまっていたのであった。

 

PART2

 

「どうしたら通訳になれるのですか」-only one word「勉強したまえ」


生まれて初めての「翻訳」  

 

こうした雑役労務が数週間続き、ようやくビル内外がきれいにかたずけられ、接収当初のあわただしさが消えかけてきたそんなある日、その前日まではそれはただその前をごみを拾いながら通り過ぎ、そこから匂ってくる何ともおいしそうな匂いが、いやが上にも空腹感をつのらせていた米兵の食堂だったが、なんとその日はその食堂へ連れていかれたのである。