叩きあげの英語 008
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叩きあげの英語 008

 


 このとき英語ができる者が一人でもいたら、たちまちその人は最高の待遇を受けたにちがいない。

 

 このようにして人選されたいくつかのグループはそれぞれの担当の米兵のあとについて作業場へと向かった。建物内部にはあちこちに散らばっておびただしい量の廃材やごみがあった。

 

作業はこれらの片付けや便所、廊下などの清掃という雑役であった。廃材の片付けなど、腕力の要る力仕事は大きい男、掃除などは小柄な男ということで人選が行なわれたわけである。この辺にもアメリカらしい能率的な考え方が出ていた。

 

 作業中は、別にだれもだらだらやっているわけでもないのに米兵は、まるでそれが口ぐせであるかのようにだれに言うのでもなく、カモン、レツゴーの連発である。

 

人を働らかせるときの、いわば「遅いよ、もっと一生けんめいやれ」という決まり文句であるらしい。Come in は「お入りください」だが、Come on となると、先程の人選のときのカミヤンで「前に出てこい」の意味となったり、またこの「一生けんめいやれ」ということになったりする。

 

何しろ生まれて初めてアメリカ人という外国人に接し、それも対等ではなく使われるという立場で英語の生の声を聞かされたわけである。

 

もとより英語が好きであっただけに、そんな仕事でも私にとっては興味津々であったが、しかしまたこんなことを続けていて、今後どうなるのかという不安もないわけではなかった。