叩きあげの英語 005
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叩きあげの英語 005

 海軍士官養成の場として、その威容と伝統をほこっていた三階建てのビルは灰色だった。その灰色の故ではないのだろうが、敗戦という、日本にとっては一大痛恨事よりも、人々の空腹感の方が何よりも増して強く迫っていた。


 中曽根首相もかつて短期現役士官の第六期生として在校していたといわれるこの経理学校は、逸早く、進駐してきた米第一騎兵師団・第七騎兵連隊が接収していた。


都内を走り回っていた自動車は、そのほとんどが米軍車輌で、中でも軽快に走るジープは車の国アメリカを象徴しているようであった。


その軽快さと、中に乗っている米兵の陽気さはわれわれの目には好感さえさそった。そのジープやトラックの後尾には1C・7Cという白ペンキの文字がくっきりと読みとれた。

 

それは1st Cavalry Division・7th Cavalry Regimentの略であるとわかったのはずっと後になってからのことである。Cavalryは通常Cav.と略する。発音はどうしてもキャバレーになってしまう。


第七キャバレーはどこにあるのか、などとよく米兵にからかわれたものであった。


 軍服の肩のところに馬の首のマークをつけた兵隊が、その部隊である。当時はそのマークが東京中にあふれていた。騎兵隊と言ってもそれは昔がそうであっただけのことで、部隊には馬などは一頭もなかった。