叩き上げの英語 182
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叩き上げの英語 182

 

憲兵隊当時とはちがい、ここはマッカーサー総司令部(GHQ)の中枢機関で、公安をつかさどるところであれば、格段も上のレベルの語学力が必要となってくる。

それまでとは全くちがった内容だったため、私はそれに慣れる目的で、まず書類の翻訳をさせてもらうことにした。  

そして上司の中島氏からそれを直してもらうのだが、あわれにも私の書いた文字が見えぬほど、赤が入り、見るも無残だったが、三月ぐらいでどうにか翻訳といえるようになった。  

私はこのPSDには約一年いるのだが、通訳と翻訳を通じてのこの時の経験と勉強が、私の語学力を一レベルも二レベルも上に押し上げ、おこがましくも後年の技術翻訳会社設立に大きく役立つことになったのである。

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GHQ公安課の組織には警察・刑務・消防の三つの行政部門があった、私は主として警察部門を担当することになった。  

警視庁からは公安部の鈴木某氏がほとんど毎日のように当課に来訪された。彼は警察官には珍しく非常に温和な人であった。  

当時は集会はGHQの認可が必要とされ、鈴木氏のところには毎日のように五、六件の集会許可申請書が提出された。彼はその申請書を毎日当課に持参し許可・不許可の裁決をしてもらうのである。  

当時はたとえば民団と略称された中華民国居留民団という勢力があって各地で集会を催し、ともすれば過激な行動に出るので、その対策に公安課当局は神経をとがらせていた。