叩き上げの英語 112
Well, what for? (何のために)
三沢基地には土木工事や建設工事のための大手の建設会社が数社入っていた。そしてそれに従事する日本人労務者は基地の全日本人従業員の六割にも達していた。
彼ら労務者のほとんどは地方からの、いわゆる出稼ぎで、その住まいも少数の下宿住いを除いて、飯場の仮住いであった。
飯場は基地を出て左手に曲がり約五百メートル行ったところにあった。時代小説を読むとこのような飯場という名称がよく出てくるが、この時代になってもまだそんな前時代的なものがあろうとは私にとって少々おどろきであった。
近代科学の粋を集めた航空機の飛翔する中、このようなバラック建ての飯場は奇妙なコントラストをえがき、その存在すら不思議で、その中に住む人々の建設会社との関係も私にはよくわからなかった。
このような現場労務者の気性は荒く、彼らは何かといえばすぐけんかを始めた。刃傷沙汰などは珍しくなく、彼らは烏合の衆であった。また付近の農家に入りこんでは食物をねだるということは彼らにしてみれば日常茶飯事でもあった。
あとの仕返しを恐れて、ほとんどの農家は彼らのいいなりになったが、しかし中には警察を介し、APに連絡してくる家もあった。当時の警察はまったく無力で、少しでも基地に関係ある者の事件なら、たちまち憲兵隊に任せてしまう。
だから事件に米兵が絡んでいなくともAPはその要請で出動した。このような飯場労務者をAPたちは construction labors と呼んで特に警戒を強めていた。
彼らの持つナイフなどの武器に備え、APたちは通常は空拳銃だが、その時ばかりは実弾を込めて行ったものであった。