叩きあげの英語 041
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叩きあげの英語 041

 

 そばに居合わせた日本人ドライバーが、さっそく質問してきた。「通訳さん」と呼びかけられたときは耳がこそばゆかった。

 

言いようのない嬉しさが全身を駆けめぐった。「あいつの言ったユーベラってどんな意味なんですか。やつらはおれたちにもよくそういうんですが」

 

 三十歳台の人が十九になるかならないかの若造の私にこのような敬語を使ってくれたのには嬉しかった。私は答えた。

 

いや、むしろ答えられてよかったとつくづく思いながら、説明を始めた。「ユーベラは You had better のことで、なになにした方がよい、ということです」と。

 

「私が『ベストをつくします』と言ったので、彼は『ああ、そうした方がいいよ』つまり、『そうしてくれ』と答えたのです」

 

 私はさらに「You had better のあとには動詞がつづいてくるのです。この場合は do your best とつづきます」とつけ加えた。それは私の言ったことの繰り返しになるから省略して、単に You had better. と言った旨補足説明した。

 

 しかし better は形容詞の good の比較級であるという認識もなく、had は動詞 have の過去形で、それがこのように better とつながる、と説明しても、そんなことは彼らにとってはどうでもよいことで、興味を示さなかった。彼らは、どんな意味なのかがわかればそれで充分だったのである。

 

 いまの私がそうであるように、当時から私は英語に関して質問を受けると、それをわかってもらうために、それの一歩手前から説き起こしたくなるのである。