叩きあげの英語 039
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叩きあげの英語 039

 

 初日はあがってしまったせいか声がうわずり、失敗に終わった。私がこのように「初日」と敢えて言ったのは、それから数回も失敗を重ねながら、変装までしてそこに通ったからである。

 

あるときなどは「あなたは先週来たではないか」と指摘され、それこそ目の前が暗くなるのを覚えながら、すごすご帰ったこともあった。めがねをかけたぐらいの変装など、とうに見破られていたのだ。

 

 頑張り屋というか、おしが太い、というのか普通の人ならばそこで、こと自分の能力について不足がましいことを言われたら、二度と同じことを聞きにそこに行くことはしないだろう。私はしかし平気だった。少なくとも次の訪問まではその間勉強はしているのだから少しは進歩しているはずだからである。

 

私は一週間前の私ではないのだから。そんな私なりのへりくつをつけて、私はあきらめなかった。

 

 ついに初日に私が「狙った」やさしい人から6回目の訪問のとき、「君の熱心さには負けたよ、そのくらいの根性があったら、英語はきっと上達が早いと思うから、それを見込んで紹介する。いわば advanced payment だ」と言われた。

 

そのアドバンスド・ペイメントの意味がわからなかった。未熟な通訳とはいえ、なんともそんな自分がなさけなかった。「動詞の過去分詞は形容詞と同じで、名詞の前につけられる。そしてその意味は『られる・られた』という味わいである。

 

だがこれは他動詞に限るもので、自動詞には適用しない。だからこの advanced payment はアドバンスされた支払い、進められた支払い、つまり前払い、ということである」というように教室で説明している今の私は、その都度この日をあざやかに思い出さずにはいられない。