叩きあげの英語 032
ホーム > 叩きあげの英語 032

叩きあげの英語 032

 

ついに一人のGIが彼の前に立った。二人の間で言葉の応酬が始まる。そのうち二人はさっと離れ、間合いをとってボクシングを始めた。


騒ぎに気づいたのか将校がやってきたので二人は止めて、さっと身をかくした。素早いものである。騒ぎの発端は相撲を始めた私たちKPにあるのだが、別に通訳つきの公式なおとがめもなく、この事件は終わった。


ゼロ戦を駆って大空で戦うはずだった私が一転して土俵上で米兵を倒したとは、有為転変の世の面白さを感じた次第であった。


PART3

未熟でもいい、ヘタでもいい ―Try, try, try again!―

マッチ・マッチャー・マッチェスト

 

いつまでも進駐軍にいても仕方がないということになり、私の将来を案じた父の強い意見で私は彼のつとめる工場で働くことになった。昭和二十一年も押しつまった十一月のことである。


夏も暑かったが、冬もまた肌をさす寒さである。終戦後の数年間は空腹に加え、衣類もままならなかったから、寒さはとくに身にこたえた。


それまでのKPの生活とは打って変わり、工場内はすべて鉄ばかりだ。触れればそのまま凍りついてしまうような冷たく暗い色ばかりで、暖かさを感じさせるものは何もない。


窓は割れても補修のガラスすらなく、そこから寒風が容赦なく吹き込んでくる。


私はもともと中学校は父のすすめで工業学校だったので機械類にはある程度の知識があり、そこで旋盤を扱うことになった。


現在はNCという数値制御 Numerical Control)ですべて自動化されているが、まだまだ当時は腕一本でその技術をきそう、いわゆる熟練工のもてはやされる時代であった。