叩きあげの英語 030
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叩きあげの英語 030

 

 

 まさに国際試合である。GIがファイトをするというのでますます観衆は増え、昼休みということもあって他の職場からの日本人も見に来た。

 

その中庭はときならぬどよめきに包まれてしまった。こうなるともうあとには退けない。思いは同じ相手のGIも、ナショナリズムに駆られているのだろうか。


 その昔、日本の海軍の広瀬中佐は若い士官の頃、艦上で大男のロシア人を相手に、柔道で投げ飛ばしたという逸話を思い出した。私もかつては海軍軍人であった。いわば広瀬中佐の後輩である。負けてはならない。


絶対に負けられないゲームが一生に一度あるとすれば、私にとっては正にこの一番がそれであったのである。


 作戦を立てた。彼らは腕力は強い。その腕で力まかせにつかまれたら最後である。しかし彼らは足の長い人間特有の、腰が弱い欠点を持つ。相撲は腰が弱ければ致命的である。私はそこに目をつけた。

 

二人は立ち上がった、猛然と私にダッシュしてくる。闘志むき出しだ。まともに受けたら私は吹っ飛んでしまっただろう。私は体を左に開き彼の気勢を殺いだ。


あらためて向かってくるとき、その足はガラ空きだ。彼は全身の力を腕に込めて、こんどこそとつかみかかってきた。

 

 相撲から見ればこれほど御し易い相手はない。私は間髪を入れず右足をひょいと前に出し彼を左手で右に押した。

 


軽く押したので、GIも軽く左足を左に出して体を支えようとした。がしかしそうはいかなかった。私の右足が邪魔をしていた。