叩きあげの英語 029
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叩きあげの英語 029

 

 

 英文法の本を彼らの頭上でばらまけば、「疑問詞の頁」、「自動詞 look のあとはその補語としての形容詞、名詞の場合は前置詞の like でつなぐ頁」、さらには「見たことがないは完了形の経験などの型を説明する頁」がひらひらと舞い降りてくるような、今にして思えばそんな英語が聞こえてきたはずである。

 

 

 私の得意な上手投げが豪快に決まって相手は倒れた。期せずして観衆のGIたちから拍手が起こった。私は、相手がもし私より大きかったらもっと効果的であったろうにと思った。

 

 

 恐らくGIたちは、単純に大きい者は小さい者には勝つのは当り前と信じている。相手の力をうまく利用して小が大を倒す柔道や相撲の奥儀など彼らは知るはずもないから、そう思うのも無理はない。

 

 

 それが証拠には私が相手を倒した瞬間に、拍手の中に「オーノー」という声も混じって聞こえてきたのである。この「オーノー(Oh, no)」は「意外な事件・結末」に対してそのおどろきの表現として、さらにまた転じて「相手の行動を非難する」場合などにも使われる。

 

 

 明らかに私に向けての非難である。そんな私の危惧を見抜いたように観衆の中から一人のGIが出てきた。私と同じぐらいの背恰好である。何も言わない。黙って土俵に上がり、先刻から見ていて分かっているらしく行司の仕切りを合図に立ち上がった。