叩きあげの英語 024
私は are you doing は進行形の疑問の姿で、それに疑問詞がついていると分析はできていたから、返答はそれに合わせて進行形でしてやろうと思ったが、うまい工合に作文はできなかった。
私は買ったその会話ブックから、「私はすることがないのです」という意味の I have nothing to do. をおぼえた。おぼえた英語は実際に使ってみたくなるのが人情である。
確かに今の都会では、街のいたるところで外人の姿を見ない日はないが、しかし、だからといってそう簡単に話しかけられるものでもないだろう。
当時の私は職場に行けばまわりはGIだらけ。日本人である私の、一生けんめいに話そうとするその英語はみんなで興味を持って聞いてくれる。またこちらが黙っていても何か言わせようと思って、何とかかんとか話しかけてくる。私はいつか彼らに文句をつけられたとき、それに毅然として返答しようと考え、待ち構えていた。
わざとぶらぶらしていた私に、案の定GIがやってきて、思惑どおりけわしい目つきでオリユードウイング、セナフィーョ (What are you doing, Center Field?) である。私は、チャンス到来とばかり、きっとなって、少なくともそうみせて言ってやった。「アイ ハヴ ノーシング ト ドウ」と。素直に通じると思っていたが、案に相違して、彼はけげんな顔をして私を見つめている。必死になって私の今言ったフレーズをわかろうとしているようだ。と次の瞬間笑い出したのである。
そして私の言った「ノーシング|は「ナッシング (nothing)」が正しいと教えてくれたのである。私のぶらぶらしていたのをなじるこわい顔つきはすでに消え去り、そこには私に英語を教える熱心な先生の顔があった。