叩きあげの英語 021
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叩きあげの英語 021

 

安田氏の英語はブロークンもブロークン、知っている単語はすべて名詞ばかりで動詞はひとつもない。ユー・サンデイ・アウト・マイブラザー・トッコウタイ・ガン。ミー・ユー・パンパン(鉄砲の発射者・GIもこういう)。


これだけで充分相手に通じたのだから面白い。特攻隊は日本語でも通じたぐらいGIたちの間にその勇猛果敢さと命知らずの攻撃精神でよく知られていた。


夕方になってその年輩の通訳が司令官と一緒にやって来た。例のおどかしでソロモン氏がこわさのあまり司令官にご注進に及んだらしい。


おどかした本人の安田氏のほうがもっとびっくりした。まさか本気ではないのに。一瞬、MP(GIや日本人に鬼より怖いと恐れられていた憲兵で Military Police の略)が自宅に急行してピストルなど家宅捜索をされるのではないかと身体が震えたと彼はあとで述懐していた。


幸いにして国際問題?にもならず、その場で安田氏とソロモン氏が握手をした劇的な場面で一件は落着した。


その辺のGIとはちがい、やはり司令官だ。その口調は重々しく威厳に満ちていた。通訳の口から出る日本語は私たち若者にもよくわかるような表現と内容だったが、それでもなお司令官の訓示を思わせる迫力があった。


また私たちの言い分もよく伝えてくれたらしく、私たちが話したよりも、より長い英語に訳してくれた。恥ずかしながら、私たちはその英訳の忠実度を言葉の長さでしか判断できなかったのである。私はこのとき決心した。私も必ず通訳になってみせる。