叩きあげの英語 012
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叩きあげの英語 012

 

 食堂に専属(?)になって二日目だったか、下士官のGI(下士官は sergeantという)が紙を持って食堂のあとかたずけやら掃除などをしている私たちのところへやって来て、全員の名前を書けという。

 

書けといわれても漢字で書くわけにもいかぬし、私が最初にIkuo Nakanoとローマ字で書いた。

 

 中学で習うまでもなく、私は小学校五年のときからすでにローマ字は書けた。ノートの下敷きに印刷してあった訓令式(Instructive Style)のローマ字表をみておぼえたのである。

 

現在のローマ字表記は駅名などほとんどすべてがヘボン式(Hepburn Style)である。「ち」や「つ」は訓令式では ti, tu であるが、ヘボン式では chi, tsu である。

 

ときおり街で見かける日通のトラックには訓令式でNITTUと書いてあるが、これを外人に「ニッツウ」と読ませるのは少し無理であろう。

 

 他の六人は六人ともまったくローマ字は知らず、私が代りに書いてやったが、これが私の初めての「翻訳」となった。翌週にタイプされた名刺大のカードができあがって来た。

 

「氏名 Name」、「所属 Assignment」そして「職種 Type of Work」などを示す。パスで、これは正門を入るときの通門証(Gate Pass)であった。assignment は私の初めて見る単語であった。いつもポケットに持っていた辞書で調べた。それも人知れずトイレの中でである。